8i 日清戦争の社会史等
このページでは、日清戦争について、総合的研究や戦史研究以外のもの、すなわち社会史などの個別分野で、日本国内を対象にした研究書を挙げています。近年は、日清戦争期の国民の意識や、出征した兵士・軍夫やその地域・家族への影響など、日清戦争の社会史的側面の研究が豊かになって来ています。また、日清戦争での戦病死の発生その他、個別の各論の理解に参考になるものもあります。
研究の対象が主に朝鮮や清国となっているものは、朝鮮での出来事に関わった日本人側の資料も含め、別のページにまとめています。
このページの内容
日清戦争の社会史
佐谷眞木人 『日清戦争 - 「国民」の誕生』
講談社現代新書 2009
本書は、日清戦争が日本国内でどのように受け止められていたか、という観点に集中した研究書です。
以下は、本書の「はじめに」からの抜粋です。
日本以外の東アジア諸国においては、「前近代を近代を截然と分かつ大きな歴史の断層」として認識されている日清戦争について、「戦争に行かなかったごくふつうの日本人が、日清戦争をどのように体験したかという興味のもとに書いたもの。」
「日清戦争当時の日本社会は、明らかに熱狂的な興奮のなかにあって異常だった」
「なぜ、このとき、それほど戦争に熱狂したのだろうか。そしてその熱狂に、メディアはどのように介在したのであろうか」
本書は、本ウェブサイト中、「2 戦争前の日清朝 - 2a2 日本② 対外硬派」のページで引用等を行っています。
大谷正・原田敬一編 『日清戦争の社会史―「文明戦争」と民衆』
フォーラム・A 1994
日清開戦100年の1994年に出版された、日清戦争の社会史的側面での論文集です。
以下の6編の論文が収録されています。
● 原田敬一「国民の参戦熱」
● 松本僖一「『自由新聞』の戦争メッセージ」
● 檜山幸夫「臨戦地広島の周辺」
● 籠谷次郎「死者たちの日清戦争」
● 北原糸子「都市東京と軍夫」
● 大谷正「『文明戦争』 と 『軍夫』」
このウェブ・サイトでの引用は、籠谷論文からだけですが、他の論文も、日清戦争を理解するのに役立ちました。読む価値があると思います。
本書中の籠谷論文は、本ウェブサイト中の下記のページで、引用等を行っています。
日清戦争末期のコレラと検疫
山本俊一 『日本コレラ史』
東京大学出版会 1982
社会史とは言えませんが、日清戦争の末期はコレラとその対策としての検疫という大きな課題が発生しましたので、それに関連する研究書も大いに参考にしました。
本書は、1822(文政5)年以来の、日本におけるコレラの発生・対策・防疫・検疫・その他の歴史を整理した、大部の研究書です。日清戦争当時、戦病死者が多かった状況を理解するのに役立ちます。
西南戦争から日清戦争にかけての時期の日本では、数万人以上から十数万人が罹病し、その大多数が死亡してしまう大流行が、数年に1度の頻度で繰り返し発生しており、対策は非常に重大な社会的関心事であったようです。
日清戦争時の対策についても、詳述されています。
本書も、本ウェブサイト中の下記のページで、引用等を行っています。
安岡昭男「日清戦争と検疫」
(東アジア近代史学会編 『日清戦争と東アジア世界の変容』 1997 所収)
本論文については、「8b 日清戦争の総合的研究(日本)」のページをご覧ください。
越澤 明 『後藤新平 - 大震災と帝都復興』
ちくま新書 2011
著者は都市政策・都市計画の研究者であり、本書はその観点から書かれた後藤新平の評伝なので、「大震災と帝都復興」という副題もついています。しかし、医師~内務省衛生局~臨時陸軍検疫部事務官長~台湾総督府民生長官時代についても十分な量の分かりやすい記述があります。
後藤新平の評伝といえば、その女婿の鶴見祐輔 (鶴見和子・鶴見俊輔姉弟の父)の筆になる 『正伝 後藤新平』 が最も詳しいのですが、何分にも、それぞれが分厚いものが8巻もあるという大著なので、入門書として手軽に読むには、本書が良さそうに思われます。
本書からは、本ウェブサイト中の下記のページで、引用等を行っています。
● 4 日清戦争の経過 - 4c2 終盤戦② 直隷決戦準備~撤兵
華族 - 戦争ビジネスモデル幻想の中で期待された地位
小田部雄次 『華族-近代日本貴族の虚像と実像』
中公新書 2006
本書も、日清戦争の社会史そのものを語るものではありませんが、戦争ビジネスモデル幻想の中で期待された、個人が得る最終的な地位に関するものです。
本書自体は、明治初年の創設から、昭和前期の敗戦後の廃止までの、華族制度の歴史と、それにまつわるさまざまなエピソードを書いています。日清戦争の当時、華族制度が存在していたことは、その当時の日本の政・軍の指導者にとって、何がしかの影響を与えていた可能性がある、という観点から、本書は参考にできるように思います。
日本が対外戦争を行って戦勝を得ることに、個人としても意欲を持つ方向で、華族制度が刺激となっていた可能性を、否定できないように思います。その意味で、本書を、ここに挙げています。
巻末に、「華族一覧」というリストが付されています。全華族について、爵位授与の日付、姓名、爵位、出身と功績などがまとめられています。華族制度があった時代を理解するためには、なかなか役に立つ資料であるように思います。
本書は、本ウェブサイト中、下記のページで引用等を行っています。
次は、明治維新以来の日本の政治状況の全般と、明治政府の対アジア政策、とりわけ、征韓論から連なる対外強硬論に関する参考図書です。