日本人以外の研究者による研究書です。日本人研究者とは異なる視点から研究されており、その点で読む価値があると思います。
本書は、日清戦争開戦100年の年に中国で刊行された、『甲午戦争与東亜政治』(中国社会科学出版社 1994)の邦訳です。日清戦争の前史に関しては1860年代から始めて、日清戦争後日露戦争に至るまでの時期が扱われています。
本書の最大の特徴は、日清戦争についての、中国側からの視点による研究書である、という点にあります。そのため、当然ながら中国国内の史料が豊富に活用されており、開戦直前から講和の前後まで、清国側は列強からの調停にどれだけ頼ろうとしていたか、その間の清国政府内の論争はどのようなものであったか、日清戦争が清国に与えた影響はどのようなものであったのか、などについての記述が、日本の研究書と比べ非常に豊かです。
とりわけ、清国政府内での主戦派対講和派の激しい対立の具体的な状況については、日本の研究書にはない詳しさで記述されています。現実に、遼東半島から威海衛まで次々に陥落して、軍事的には完全に連戦連敗であるにかかわらず、清朝政府内で大きな勢力をもつ主戦派は、その現実を客観的に判断することが全くできなかったようです。
清国の主戦派は、戦争遂行の力量も、効果的な防衛反攻策や列強からの支援獲得の思案もないのに、講和には反対していた状況は、日清戦争での清国の戦争遂行力と講和交渉力の程度を象徴するものであった、という気がします。
日清戦争の全体像を理解する上で、本書も、読む価値がある研究書の一冊であるように思います。
本書からは、本ウェブサイト中の「戦争の結果」のページで引用等を行っています。
次は、アメリカ人の研究者によって英語で書かれた、日清戦争の研究書です。
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